いろいろバス
赤いバス、黄色いバス、緑のバス・・・。
いろんな色のバスはいろんな色の動物や物を乗せて運んでくれるようです。
そして、青いバスには絵本なんかをを乗せてみたりして・・・。
10年ほど前、ペンネンネネムを始める頃。
当時のぼくは今よりずっとエネルギッシュだったようで、青いワーゲンバスで野外イベントなどに絵本とドーナツなんかを積んで、「絵本バス」と称して何度か出店していました。
それなりに楽しくやっていたんですが、ちょうどお店も忙しくなり始めていたので結局5,6回で絵本バスを走らせなくなりました。
その時売ってしまおうかとも考えたんですが、心のどこかでまたいつかこの青い絵本バスを使えるような日が来るような気がして、車検登録を一時抹消して自宅の駐車場に眠らせることにしました。
また絵本とドーナツを乗せて走り出すことを夢見て・・・。
ぼくは、ある問題を解決するべく車屋さんで働いている古い友人に電話しました。
友人は外車専門の車屋さんで、今は横浜で単身赴任しています。
ぼく「単身赴任長いなぁ?子供に会いたいやろ?」
友人「もう大きいし、それはそうでもないけど、ちょっと会いたいのが大阪におるんやわ」
ぼく「ん?」
友人「先週フレンチブルドッグ買ったんよ。まだ子犬でな、散歩したいねんなあ」
ぼく「へー。なんぼしたん?」
友人「50万」
ぼく「えー!?ブルドッグ50万もすんの?ああ、でもそうか、俺もこの前ペットショップで特大のチャウチャウがいて懐かしいなぁとか思いながら値札みたら80万ってなってて腰抜かしたもんな?」
友人「でもあの可愛さやったら全然安い買いもんやったな。んで要件なんやねん?」
ぼく「そうそう、実はなこんど須磨で新しい店することになって、庭にバスを置きたいから力貸してほしいねんけど・・・」
この須磨の物件は家の前が階段になっている上、道幅も狭く、車体の大きいバスを運び込むのはなかなか大変な作業になるであろうと踏んでいました。
ぼくは須磨の写真を何点かメールして、少々お金がかかっても構わないので、とにかくバスを庭まで運び込める段取りをつけてくれと相談しました。
写真を見た友人はブルドッグを語る時とは対照的な張りのない声で「「これ、けっこう厳しそうやなあ・・・」とつぶやいて電話を切りました。
15日後。
友人から4文字だけのメールが来ました。
「全然無理」
ぼくはすぐさまTELしました。
ぼく「おい、お前ちゃんと調べてくれたんか?なんで無理やねん!?」
友人「アホ。めっちゃ調べたわ!陸送とか何軒も当たったけど全滅」
ぼく「待って待って。ちょっと頼むわ。オレ10年もこの日のために動かん車、家の車庫に置いとってんぞ?お前、俺の10年をたった4文字で終わらせる気か!?」
友人「ははは。ご愁傷さま」
友人は早くあきらめろと言わんばかりに、そこにバスを運び込むことの難しさを説明しました。
友人「だからもうヘリコプターで上空から降ろすとかしか方法ないんちゃうか?」
ぼく「・・・ヘリコプターかあ?」
友人「お、お前本気か?シャレで言ったつもりやってんけど・・・そこまでして庭に車おかなあかんの?」
ぼく「庭に絵本バスがあるのとないのとではぜんっぜん違うねん!」
友人「まあ、ここはスパッと気持ち切り替えて、売っちゃいなさい。買い先見つけたるから」
ぼく「おまえは俺の気持ち全然わかってへん・・・。10年間動かん車で家の車庫占領して、家族にも早よ売ってれくって煙たがられるし、近所のおっちゃんにも乗らへんねやったら売ってくれってしょっちゅう家のピンポン押されるしやなあ・・・なんやってん俺のこのバスを守ってきた10年は・・・」
友人「バスやったらファン多いから買い手すぐ見つかると思うし、車検証用意しとき」
ぼく「こういうのどう?一回車バラシて庭先まで運んでまた庭で組み立てるみたいな」
友人「あのなあ、プラモデルちゃうんやで?鉄の塊やで?無理に決まってるやろ」
ぼく「はあ・・・もう売るしかない?」
友人「なんぼで売りたい?」
ぼく「・・・そんなんわからん。適当に相場ぐらいでしてくれたらええわ・・・」
友人「心当たりあるから、バスの写真また送っといてな」
バスを売るってなってから、友人が妙にブルドックの話をしてる時のような弾む声になっているような気がしました。
あくる日。
友人からのメール。
「岸和田のレトロカー専門の車屋さんが興味あるので車の状態を教えてほしい」とのこと。
友人へ車の状態をメール。
数時間後。
友人より「岸和田の人が実物を見たいたいので何日か預かりたい」とのメール。
「いいけど、あんまり安かったら売らへんで」とメール。
数分後。
「明日岸和田の車屋さんのスタッフが取りに行く」とのメール。
「いいけど、あんまり安かったら売らへんで」とメール。
その夜、友人からTEL。
買い取り価格を提示して、岸和田の人は車を愛するとてもいい人だとの説明をひとしきり受けました。
友人「明日引き取りでええよなぁ?」
ぼく「んん、心の準備が・・・」
友人「また、お前の好きそうなもう少し小さめのレトロカー探しといたるから」
ぼく「・・・こういうのどう?階段にコンクリート流して坂にしてバスを庭まで引っ張るっていうのは?」
友人「あのなぁ、公道勝手にいじれるわけないやろ?もう諦めろよ。打つ手ナッシング」
ぼく「はあ・・・」
ぼくはその夜ベッドで明日お別れをするバスのことを思っていました。
鈍いエンジン音、重たいハンドル、風をいれる小窓、絵本を飾ったリアシート・・・。
やっぱり売るのやめようか・・・?
でも須磨で使えない以上、持って置く意味もないしなぁ・・・。
大切にしてくれそうな人がいい値段で買ってくれるわけやし、売ったほうが・・・。
ん?
いい値段?
待て待て。
相場でって言ってたけど、オレ相場知らんやん?
あれ?
そういや、あいつやたら岸和田の人はええ人アピールしとったなあ・・・そんな必要ある?
あれ?
そういえば、あいつバスを庭に入れるのを調べるときは15日もかかってメールしてきたのに、買い取るときは次の日にチャッチャとこまめにメール入れてきたぞ?
レスポンス早くね?
いやいやいやいや、友人疑うかオレ?
それはアカン。人として。
でも、友人が岸和田の人と握ってて安い値段でオレから買い取って、どこぞのバスファンに高値で売って利益を分け合うって作戦やったら?
あかんあかん何考えてんねんオレ?
友人がオレにそんなことする必要があるか?
あ?
い、犬!?
50万の子犬買ったばっかりで金に困っとるはずや!
これはチャウチャウの購入費用のための罠や!
そうや!
いや、チャウチャウちゃうぞ、ブルドッグや。
チャウチャウちゃうやん。
あんにゃろお、オレのバスをチャウチャウ代に、
チャウチャウちゃう、ブルドッグ代にしようとしやがって!
翌朝、ぼくはワーゲンバスの専門店に問い合わせの電話をしました。
結果、友人の買い取る値段は相場よりちょっと高めでした。
ぼくは友人とチャウチャウに、ちゃうちゃう、友人とブルドックに心の中で謝罪しました。
午後3時。
ぼくの自宅に岸和田の車屋さんのスタッフさんがレッカー車に乗ってやってきました。
エンジンの掛からないバスを押してレッカー車に載せないといけないのでスタッフさんも四苦八苦されていました。
スタッフさん「やばいっすね。ちょっと今日積めないかも・・・ちょっと手伝ってもらっていいっすか?」
ぼく「はいはい。じゃあ、ぼく前から押しますね」
ぼくは少しでも長くバスといれることになりそうで内心ちょっと喜んでいました。
スタッフ「せーの」
スタッフさんの合図でぼくが押して、スタッフさんが引っ張ります。
ぼくは5割くらいの力で10割くらいの力を出してる顔をしながら押していました。
スタッフさん「「す、すいません、お、押してますよね?」
ぼく「え?ええ、目いっぱい押してますよ」
ぼくが思ってた以上に青いワーゲンバスはバカなやつで、人が5割の力で押してやっているにもかかわらず、30分ほどでスッとレッカー車に乗り込んでしまいました。
いろいろバスはいろんな色のものを乗せて今日も絵本の中を走っていることでしょう。
だけどペンネンネネムの青いバスはいろんな絵本を乗せることができなくなりました。
青いバスはもう一生絵本を乗せることはないかもしれないけど、これからまた10年休んだ分、海へ山へ町へ走り出すことでしょう。
新しいやさしい運転手さんが、サンドイッチやサーフボードやチャウチャウ・・・なんか乗せてね。