in the forest

少年はラッパを吹きながら森の中をひとりで散歩しています。

森の奥に少年のラッパの音が響いて、ライオンがやってきました。

そして、くま、ぞう、カンガルー、さる、うさぎといろんな動物たちが次々と少年のラッパの音色に誘われてやってきます。

みんなそれぞれに太鼓を叩いたり、踊ったり、歌ったりして少年のあとをついていきました。

少年と動物たちのマーチングバンドは深い森の中を行進していきます…。

マリーホールエッツ作「もりのなか」という絵本のお話しです。

 

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 2年前くらいから、

こんなちょっと不思議で楽しい世界観の「ペンネンネネムin the forest」という名の絵本店を考えはじめました。

とりあえず、「まわりが森」「庭が広い」「駅から徒歩で行ける」「海がみえる」

この4つの条件で頭の中の「ペンネンネネムin the forest」に最適な場所を探し始めました。

半年たっても、一年たってもこの条件にはかすりもしませんでした。

そして、1年半後。

神戸の須磨の丘の上の一軒家と出会いました。

何十年とほとんど空き家状態。家もボロイし、庭は雑草ジャングルでした。

しかし、家のまわりをぐるっと雑木林が囲んでいて見事に森の中という空間になっていて、

振り返ると神戸の海が広がっていました。

庭も広く、駅からも歩いて8分程度の距離。

ペンネンネネムin the forest」のイメージが一気にふくらみました。

そこから、なんやかんやといろいろあって、いよいよ決断のときになりました。

ぼくにとってはとても大きな買い物なので、

「よく考えたいので一週間だけ時間をください」と不動産屋さんに伝えました。

それからぼくは毎日そこに通ってその家や森や海の景色を眺めながら、

買うべきか?やめるべきか?を悩んでいました。

軽く失敗しましたのレベルの金額ではなかったので、考えれば考えるほど迷いました。

最初苦にならなかった駅からの道のりもなんだか妙にしんどく感じたり、

最初に感激したそこから見える海の景色もそんなに素敵に感じなくなっているような気もしてきました。

結局自分はなんじゃかんじゃと買わない理由さがしてる?

でもこんな自分の理想に近い場所が今まであったか?

そもそも須磨の住宅街の丘の上のカフェにお客さんが来る?

もしほかの誰かがここでいい感じのカフェやったとき超後悔しないか?

ここまで値段が下がっても買い手がつかなかったってことは、たとえ安くても買うべきではないアブナイ物件ってみんなが判断してるってことじゃないのか?

いやいや、、みんなが買わないから逆に買いなんじゃないか?

もう迷いすぎて考えるのも嫌になってきたとき、そこの家の前で近所のおばあさんに声を掛けられました。

おばあさん「ここ誰もいてはれへんよ」

どうも空き家周辺でウロチョロしていたので不審者扱いにされたようです。

ぼく「あ、知ってます。ここ売りに出てまして、買おうかどうか迷っていて見に来ているんです」

おばあさん「あら、そうなの。もう私は92なんやけどね、40年くらいここで住んでるけど

 いいとこよここ。静かやしねえ。たまにこーやって音楽の音が聞こえてくるぐらいでほんとのんびりできるとこよ」

たしかに耳を澄ますと吹奏楽のトランペットや太鼓の音がかすかに響いていました。

近くに支援学校があるらしくそこの生徒さんたちの演奏とのことでした。

町の景色に溶け込みすぎて全然気づきませんでした。

そこから92歳のおばあさんはぼくにこの町の素晴らしさを語り始めました。

春の桜、海に見える夏の花火、ウグイスの声、近くの植物園、交通の便のよさ、市バスの運転手の態度、

20年前にご主人に先立たれたこと、長男が東京の証券会社で働いていること、長男の嫁との確執・・・。

だんだん話しが違う方向に行きだしました。

ぼく「あ、あのお、虫とかはどうですかねえ?やっぱり森やしすごい多かったりします?」

おばあさん「そりゃいるけど、そんなに特別多いことはないと思うけどねえ。この前フクロウいてたよ」

ぼく「えーフクロウいてるんですか!?いいですねえ」

おばあさん「こざるもいてるよ」

ぼく「サルいるんですか!?」

おばあさん「何年か前に小学生の子がコグマ捕まえたこともあるよ」

ぼく「こ、小熊!!??いやいや、そんなんアブナイじゃないですか?大きくなったら・・・」

おばあさん「危険物で市役所に持って行ったみたいやわ」

ぼく「はあ・・・」

おばあさんはこの後、このやりとりを3回ぐらいループさせました。

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 ぼくは駅までの道すがら、ここを買う決意が固まりました。

ぼくは大切なことを見失っていたようです。

商売が成功するとか失敗するとか、駅からの道が楽かしんどいかとか、ロケーションがいいとか悪いとか・・・

そんなことばかりを気にしていて92歳のおばあさんにほんとにたいせつなことを教えていただきました。

ほんとうに大切なことは

森の中にラッパの音が聞こえて、その森にラッパの音を聴く動物たちがいるかということでした。

おそらくあと100年「ペンネンネネムin the forest」にふさわしい場所をさがしても、

森の中にラッパの音が響いて、その森にクマやサルがいるようなところは見つからないでしょう。

 

これを読んでくれているペンネンネネムのお客さんの耳にもラッパの音が届くといいなと思います。

もし、このラッパの音が誰にも届かず、ペンネンネネムin the forestが失敗したとき、全責任はこのおばあさんに負っていただく所存です。

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おそらくおばあさんの言うコグマはアライグマのことではないかと近頃思っています…zzz