せんろはつづく

こどもたちが線路を繋いでいきます。

山があったらトンネルを掘り、川があったら橋を架け、

線路はどんどん続きます。

こどもたちの線路に終わりはありません。

ではペンネンネネムの線路はどこまで続くのでしょうか?

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大阪のペンネンネネムにて。

ぼく「なあ、スマホで再生してる動画を大きいテレビとかにライブで映すことってできるかわかる?」

唐突にスタッフに質問しました。

スタッフ「う~ん、どうなんですかねえ?できそうな気しますけどわかりません。何でですか?」

ぼく「実は、こんど須磨の店でプラレール走らせようと思っててな」

スタッフ「プラレール?おもちゃの電車の?」

ぼく「そうそう。ここ(大阪)でもしたかって、ずっと考えててんけどやっぱりスペース的に難しくて、次店やるときは絶対プラレールやろって決めててん」

スタッフ「へー、楽しそうですねえ」

ぼく「そうやねん。でな、こんど10月にプラレールの車載カメラ付き列車が発売されるんよ。それスマホで操作するらしいねんけど、ジオラマを作り込んだら臨場感出てなかなかの迫力出せそうやから、どうせやったらおっきい画面で、うちの店内を走り回ってる様子をお客さんみんなに楽しんでもらいたいなと」

スタッフ「じゃあどこか家電屋さんとかで聞いてみたらどうですか?」

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ぼくはその夜ヨドバシカメラAppleコーナーに行ってみました。

近くに若い女性の店員さんがいたので、聞いてみました。

ぼく「あのお、ちょっとぼくこういうネットとか全然わかんないんで、おかしな質問かもしれないんですけど、

スマホで再生してる動画を大きい画面でライブで見ることって可能ですか?」

アップルさん「ああ、ミラーリング機能で簡単にできます」

アップルさんは持っていたアイフォンでささっとミラーリング機能の説明をしてくれて、近くの大きいモニターにその画面を映し出してくれました。

ぼく「おー、すぐですねえ。ってことはパソコン同士じゃなくても映し出せるってことですか?」

アップルさん「もちろん。テレビでもいけます」

ぼく「そうなんですね。じゃあMACの大きいパソコン買わなくてもいいんですね」

アップル「え?この機能のためにパソコン買おうと思われてたんですか?」

ぼく「いや、全然わからないんで、それしか方法ないのかと・・・」

アップルさん「そんなんお金もったいないですよ。テレビで十分ですよ」

ぼく「そうですか。じゃあ上で売ってるテレビやったらどれでもいけますか?」

アップルさん「おうちのテレビにはHDMLはついてますか?」

ぼく「・・・えーうちにテレビないんです」

アップルさん「そうなんですか。なにかポリシーで?」

ぼく「いえいえ。犬にコードかじられて見れなくなったんです」

アップルさん「ハハハ。ワンちゃんかまってほしいんですね?テレビも必要ないんでしたら、液晶モニターでHDMLの付いているものだったら可能なので、それが一番安上がりですよ」

ぼく「すいません、そのエイチなんとかって録画できるやつのことですか?」

アップルさん「いえいえ。それハードディスクのこと言われてます?ちょっと案内します」

同じフロアのパーツコーナーに案内されて、HDMLというのがコードだということを知りました。

録画て・・・。

アップルさん「ご自分で撮影されたものとかを見るんですか?」

ぼく「んん、自分で撮影と言いますか・・・」

ぼくは、いい大人がプラレールのためにというのが恥ずかしくて、そこは伏せていました。

アップルさん「ユーチューブとかの動画サイトとかですか?」

ぼく「いえ、そういうのでもないと思うんですけど・・・」

アップルさんの追及の手が緩みそうもないので、ぼくは観念しました。

ぼく「プラレールってわかりますか?」

アップルさん「おもちゃの電車の?」

ぼく「そうです。こんど車載カメラ付きのが発売されるんで、それがスマホのアプリで操作するそうで」

アップルさんはアイフォンをサクサク操作して、瞬時に新発売のプラレールのサイトを映し出しました。

アップルさん「これですか?」

ぼく「そうです」

アップルさん「へー面白いですねえ。なんかわたしもプラレールに興味でてきました」

それからアップルさんはアップルTVやら光回線の説明もしてくれました。

ぼく「どうもいろいろありがとうございました。じゃあ、液晶モニターみて帰ります」

アップルさんは名刺を取り出して渡してくれました。

アップルさん「また困ったことあったらお声かけてください。だいたいここにいてますんで」

ぼく「ああ、どうもご丁寧にすいません。助かります」

アップル「いや、お客さんすごくお困りのようなんで・・・別に深い意味はですよ」

ぼく「・・・」

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ぼくは帰りの道中、

プラレール計画がなんとかイメージしたレールの上に乗っかったような気がして晴れやかな気持ちで歩いていましたが、ほんの少しのわだかまりがありました。

「深い意味はないですよ」

最後のあの言葉はなんだったんでしょう?

家電屋さんの営業の方がお客さんに名刺を渡す行為は、結構普通の行為やと思うんですが・・・?

深い意味ってなると、

やっぱり男女問題?

アップルさんからしたら、勘違いしてくれるなよという重石?

 

ぼくはアップルさんの心中を推理してみました。

アップルさんが名刺を渡す。

ぼくはなにを勘違いしたのか、アップルさんがぼくに好意を抱いているから名刺を渡してくれたと思い込む。

ぼくはアップルさんに会いにAppleコーナーにしょっちゅう通うようになる。

アップルさんは仕事どころじゃなくなり迷惑する。

ぼくはウザい客になる。

困り果てたアップルさんが上司に相談する。

ぼくはヨドバシ出禁になる。

ぼくはヨドバシの閉店時間にアップルさんを待ち伏せする。

ぼくは駆け付けたガードマンに取り押さえられる。

ストーカー規制法で有罪判決が下る。

プラレール男、ストーカーで逮捕!」

の文字がYAHOOニュースに踊る。

「警察の発表によると、男はプラレールの相談に行ったら、恋の特急列車が走り出したと供述しており、警察は薬物との関連も含めて捜査する方針を固めました」

 

 

これはやばいです。

ぼくにはペンネンネネムin the forestを完成させて、その店内を縦横無尽に走るプラレールの線路を敷いていくという使命があります。

ここでストーカー規制法に引っかかるわけにはいきません。

約束します。

ぼくは逮捕されません。

ペンネンネネムのお客さんに約束します。

ぼくは、ストーカー規制法をかいくぐりプラレールの線路を敷き続けることを。

 

ストーカー店長の線路は続く、どんどん続く・・・。

 

誰がストーカーじゃいっ!

 

 

いろいろバス

赤いバス、黄色いバス、緑のバス・・・。

いろんな色のバスはいろんな色の動物や物を乗せて運んでくれるようです。

そして、青いバスには絵本なんかをを乗せてみたりして・・・。

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10年ほど前、ペンネンネネムを始める頃。

当時のぼくは今よりずっとエネルギッシュだったようで、青いワーゲンバスで野外イベントなどに絵本とドーナツなんかを積んで、「絵本バス」と称して何度か出店していました。

それなりに楽しくやっていたんですが、ちょうどお店も忙しくなり始めていたので結局5,6回で絵本バスを走らせなくなりました。

その時売ってしまおうかとも考えたんですが、心のどこかでまたいつかこの青い絵本バスを使えるような日が来るような気がして、車検登録を一時抹消して自宅の駐車場に眠らせることにしました。

また絵本とドーナツを乗せて走り出すことを夢見て・・・。

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ぼくは、ある問題を解決するべく車屋さんで働いている古い友人に電話しました。

友人は外車専門の車屋さんで、今は横浜で単身赴任しています。

ぼく「単身赴任長いなぁ?子供に会いたいやろ?」

友人「もう大きいし、それはそうでもないけど、ちょっと会いたいのが大阪におるんやわ」

ぼく「ん?」

友人「先週フレンチブルドッグ買ったんよ。まだ子犬でな、散歩したいねんなあ」

ぼく「へー。なんぼしたん?」

友人「50万」

ぼく「えー!?ブルドッグ50万もすんの?ああ、でもそうか、俺もこの前ペットショップで特大のチャウチャウがいて懐かしいなぁとか思いながら値札みたら80万ってなってて腰抜かしたもんな?」

友人「でもあの可愛さやったら全然安い買いもんやったな。んで要件なんやねん?」

ぼく「そうそう、実はなこんど須磨で新しい店することになって、庭にバスを置きたいから力貸してほしいねんけど・・・」

この須磨の物件は家の前が階段になっている上、道幅も狭く、車体の大きいバスを運び込むのはなかなか大変な作業になるであろうと踏んでいました。

ぼくは須磨の写真を何点かメールして、少々お金がかかっても構わないので、とにかくバスを庭まで運び込める段取りをつけてくれと相談しました。

写真を見た友人はブルドッグを語る時とは対照的な張りのない声で「「これ、けっこう厳しそうやなあ・・・」とつぶやいて電話を切りました。

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 15日後。

友人から4文字だけのメールが来ました。

「全然無理」

ぼくはすぐさまTELしました。

ぼく「おい、お前ちゃんと調べてくれたんか?なんで無理やねん!?」

友人「アホ。めっちゃ調べたわ!陸送とか何軒も当たったけど全滅」

ぼく「待って待って。ちょっと頼むわ。オレ10年もこの日のために動かん車、家の車庫に置いとってんぞ?お前、俺の10年をたった4文字で終わらせる気か!?」

友人「ははは。ご愁傷さま」

友人は早くあきらめろと言わんばかりに、そこにバスを運び込むことの難しさを説明しました。

友人「だからもうヘリコプターで上空から降ろすとかしか方法ないんちゃうか?」

ぼく「・・・ヘリコプターかあ?」

友人「お、お前本気か?シャレで言ったつもりやってんけど・・・そこまでして庭に車おかなあかんの?」

ぼく「庭に絵本バスがあるのとないのとではぜんっぜん違うねん!」

友人「まあ、ここはスパッと気持ち切り替えて、売っちゃいなさい。買い先見つけたるから」

ぼく「おまえは俺の気持ち全然わかってへん・・・。10年間動かん車で家の車庫占領して、家族にも早よ売ってれくって煙たがられるし、近所のおっちゃんにも乗らへんねやったら売ってくれってしょっちゅう家のピンポン押されるしやなあ・・・なんやってん俺のこのバスを守ってきた10年は・・・」

友人「バスやったらファン多いから買い手すぐ見つかると思うし、車検証用意しとき」

ぼく「こういうのどう?一回車バラシて庭先まで運んでまた庭で組み立てるみたいな」

友人「あのなあ、プラモデルちゃうんやで?鉄の塊やで?無理に決まってるやろ」

ぼく「はあ・・・もう売るしかない?」

友人「なんぼで売りたい?」

ぼく「・・・そんなんわからん。適当に相場ぐらいでしてくれたらええわ・・・」

友人「心当たりあるから、バスの写真また送っといてな」

バスを売るってなってから、友人が妙にブルドックの話をしてる時のような弾む声になっているような気がしました。

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 あくる日。

友人からのメール。

「岸和田のレトロカー専門の車屋さんが興味あるので車の状態を教えてほしい」とのこと。

友人へ車の状態をメール。

数時間後。

友人より「岸和田の人が実物を見たいたいので何日か預かりたい」とのメール。

「いいけど、あんまり安かったら売らへんで」とメール。

数分後。

「明日岸和田の車屋さんのスタッフが取りに行く」とのメール。

「いいけど、あんまり安かったら売らへんで」とメール。

その夜、友人からTEL。

買い取り価格を提示して、岸和田の人は車を愛するとてもいい人だとの説明をひとしきり受けました。

友人「明日引き取りでええよなぁ?」

ぼく「んん、心の準備が・・・」

友人「また、お前の好きそうなもう少し小さめのレトロカー探しといたるから」

ぼく「・・・こういうのどう?階段にコンクリート流して坂にしてバスを庭まで引っ張るっていうのは?」

友人「あのなぁ、公道勝手にいじれるわけないやろ?もう諦めろよ。打つ手ナッシング」

ぼく「はあ・・・」

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 ぼくはその夜ベッドで明日お別れをするバスのことを思っていました。

鈍いエンジン音、重たいハンドル、風をいれる小窓、絵本を飾ったリアシート・・・。

やっぱり売るのやめようか・・・?

でも須磨で使えない以上、持って置く意味もないしなぁ・・・。

大切にしてくれそうな人がいい値段で買ってくれるわけやし、売ったほうが・・・。

ん?

いい値段?

待て待て。

相場でって言ってたけど、オレ相場知らんやん?

あれ?

そういや、あいつやたら岸和田の人はええ人アピールしとったなあ・・・そんな必要ある?

あれ?

そういえば、あいつバスを庭に入れるのを調べるときは15日もかかってメールしてきたのに、買い取るときは次の日にチャッチャとこまめにメール入れてきたぞ?

レスポンス早くね?

いやいやいやいや、友人疑うかオレ?

それはアカン。人として。

でも、友人が岸和田の人と握ってて安い値段でオレから買い取って、どこぞのバスファンに高値で売って利益を分け合うって作戦やったら?

あかんあかん何考えてんねんオレ?

友人がオレにそんなことする必要があるか?

あ?

い、犬!?

50万の子犬買ったばっかりで金に困っとるはずや!

これはチャウチャウの購入費用のための罠や!

そうや!

いや、チャウチャウちゃうぞ、ブルドッグや。

チャウチャウちゃうやん。

あんにゃろお、オレのバスをチャウチャウ代に、

チャウチャウちゃう、ブルドッグ代にしようとしやがって!

 

翌朝、ぼくはワーゲンバスの専門店に問い合わせの電話をしました。

結果、友人の買い取る値段は相場よりちょっと高めでした。

ぼくは友人とチャウチャウに、ちゃうちゃう、友人とブルドックに心の中で謝罪しました。

 

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 午後3時。

ぼくの自宅に岸和田の車屋さんのスタッフさんがレッカー車に乗ってやってきました。

エンジンの掛からないバスを押してレッカー車に載せないといけないのでスタッフさんも四苦八苦されていました。

スタッフさん「やばいっすね。ちょっと今日積めないかも・・・ちょっと手伝ってもらっていいっすか?」

ぼく「はいはい。じゃあ、ぼく前から押しますね」

ぼくは少しでも長くバスといれることになりそうで内心ちょっと喜んでいました。

スタッフ「せーの」

スタッフさんの合図でぼくが押して、スタッフさんが引っ張ります。

ぼくは5割くらいの力で10割くらいの力を出してる顔をしながら押していました。

スタッフさん「「す、すいません、お、押してますよね?」

ぼく「え?ええ、目いっぱい押してますよ」

ぼくが思ってた以上に青いワーゲンバスはバカなやつで、人が5割の力で押してやっているにもかかわらず、30分ほどでスッとレッカー車に乗り込んでしまいました。

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いろいろバスはいろんな色のものを乗せて今日も絵本の中を走っていることでしょう。

だけどペンネンネネムの青いバスはいろんな絵本を乗せることができなくなりました。

青いバスはもう一生絵本を乗せることはないかもしれないけど、これからまた10年休んだ分、海へ山へ町へ走り出すことでしょう。

新しいやさしい運転手さんが、サンドイッチやサーフボードやチャウチャウ・・・なんか乗せてね。

 

 

しごとば

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美容師さん、お寿司屋さん、野球選手、パイロット・・・。

いろんな仕事人の仕事現場の風景を描いた絵本「しごとば」

こども版ハローワークといったところでしょうか。

ただこの絵本には「絵本店」と「工務店」は載っていませんでした。

では、「絵本店」と「工務店」はどんなところなのかのぞいてみましょう。

 

工事の打ち合わせも大詰めのころ。

工事費用でペンネンネネムin the forestの行く末は大きく左右されると考えていたぼくには、

ある秘策がありました。

工事を請け負うのはこれまでずっと大阪でお世話になっていた工務店さんです。

この工務店の社長さんはとても気のいい方で、なんというか非常に情に厚い方です。

ぼくはその厚い情を利用してこれまでも秘策を切り札に工事代をサービスしてもらってきました。

そして今回は、どれだけ安く工事してもらうかというよりも予算内でどれだけの作業をしてもらえるかがポイントになっていました。

 

須磨の午後。

ぼく「ちょっと3点ほどお願いあるんですけど、今回の工事に雨どいの交換も込みでお願いできませんか?」

工務店さん「はあ~?ネネムさんむちゃ言うたあかんわ!これでも安いはずよね?それやったら予算上げてもらわんと」

ぼく「わかってます。それは十分理解してるんですけど、この予算を超えるわけにはいかんのですよ」

工務店さん「それは無理やて。今でも職人さんらには結構無理言うてんねやから」

ぼくはさっそく切り札を切りました。

ぼく「わかりました。雨どいは、もう自分でやりますわ」

工務店さん「・・・ネネムさん、無理やて。素人が雨どい付け替えるなんて」

ぼく「んん、でもこのままってわけにもいかんし・・・まあ頑張ってみます」

工務店さん「簡単に言うけど、足場も組まなあかんしアブナイからそういうのはプロにたのまんと。やめときて」

ん?

くるか?

工務店さん「・・・(深くため息をついて)じゃあ、2階部分の雨どいはなしにして1階部分だけでもいい?」

きた!

ぼく「あざ~す!・・・それとですね、庭の木なんですけど、どうしても切ってほしいのがあるんですけど一緒にお願いできません?」

工務店さん「え~!?うち工務店よ?造園屋ちゃうんやから木の伐採なんか専門ちゃうのに・・・(庭の方を見て)どの木よ?」

ぼく「(庭の木を指さして)あれとあれとあれとあれと・・・」

工務店さん「・・・ええ?10本も?」

ぼく「11本です」

工務店さん「無理無理、これは勘弁して」

ぼく「「でも、これやっとかんと新築の方も進められへんし、なんとかなりません?新築建てる時も絶対おやっさんとこにお願いしますんで・・・」

工務店さん「・・・」

新築発言でちょっと揺れたようです。

ぼくはすかさず2回目の切り札を切りました。

ぼく「はあ・・・そうでうか・・・やっぱきびしいですよね?まあ、なんとか自分でやってみますわ」

工務店さん「だ・か・らアブナイから。あんな大きい木、下手したら大事故なるよ?だいたいチェーンソー持ってんの?」

ぼく「今、アマゾンで探してるんです」

こい!

工務店さん「(深くため息ついて)もうかなわんなあ・・・7月中は無理よ。いつできるかも決められへんし、スケジュール内では無理やけど、それでいい?」

ぼく「あざーす!助かります・・・あのお・・・」

工務店さん「・・・ま、まだあんの?」

ぼく「できたらその解体の時の廃棄物の処理も込みでお願いしたいんですけど?」

工務店さん「え?ネネムさん、処分業者自分で見つけるって言ってたやん?」

ぼく「そ、そうやったんですけど、実際見積もりとったらおそろしい金額やって・・・」

工務店さん「だから言ったのに、結構高いでって。うち若い子二人でやんねんよ?ここ土壁多いからすごい廃材の量なるよ?その処分をこの若い子二人になんかさせられへんよ?しかもこんな熱い日続いてんのに?」

桜の木にとまったセミがミンミン鳴いています。

ぼくはここで3回目の切り札を切りました。

ぼく「はあ・・・やっぱそうですよね・・・こればっかりは自分でやらんと無理ですよね・・・」

工務店さん「申し訳ないけど」

わ、切り札見透かされた?

ぼくは仕舞っておいたとっておきの最後の切り札を放り込みました。

ぼく「でも、けっこうバケツリレーでやったらいけそうな気するんすけどねえ?」

工務店さん「バケツリレー?」

ぼく「ええ。ここからトラックのとこまで10人ぐらいで列になって流れ作業で廃材運んでいくんです」

工務店さん「10人って誰?」

ぼく「うちのバイト」

工務店さん「ネネムさんのとこ女の子ばっかりやんか?お、女の子らに、こ、これさせる気?」

ぼく「しゃーないです。つらいとこですけど、店休みにして全員呼んでやらせます」

工務店さん「あかんあかんあかんあかん、そんなん絶対無理無理無理」

ぼく「だってそれしか方法ないんですもん」

工務店さん「ネネムさん訴えられるで」

ぼく「もうペンネネネムBLACKに名前変えますわ。ハハハ」

工務店さん「・・・」

表情からそうとう最後の切り札は効いてるようです。

くるか?

工務店さんは少し離れたとこに行って誰かと電話し始めました。

くるか?

工務店さんがぼくのところに近づいてきます。

きてくれ?

工務店さん「ネネムさん、こんどの工事代、あれ、税別にしてくれる?ほんならやってあげるわ」

きたー!

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 解体工事が始まりました。

 

20歳前後の若い男の子がとんでもなく積み上げられた廃材をトラックに運んでいきます。

桜の木のセミがうるさいです。

1時間してイケメンの男の子二人の顔が歪んできました。

2時間して男の子二人の汗で水たまりができそうです。

ぼくはちょっと心苦しくなって庭でほかの業者さんと打ち合わせしていた工務店さんに声をかけました。

ぼく「ぼく店帰るの一時間遅らせましょか?」

工務店さん「なんで?」

ぼく「いや、あの子らちょっと手伝ってあげたほうがいいかなって」

工務店さん「いいよそんなん。なに言ってんの?あれ仕事やないの?あの子らあれでお金もらってやってんねやから。ネネムさんお金払ってんねんから、変なこと考えんでええの」

ぼく「でも・・・」

工務店さん「仕事仕事。若いうちはみんなすることやから」

そういって工務店さんはまた打ち合わせに戻りました。

ミンミンミンミン。

早くセミが鳴き止んでほしいなと思いました。

 

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これから日本の未来を担う子供たちへ。

絵本店と工務店選びだけはどうぞ慎重に。

 

 

つみきのいえ

地球の海面がどんどん上昇しておじいさんの家は海の中に沈んでしまいそうになります。

おじいさんは海面に没しないよう家を高くしていきます。

3階建て、4階建て、5階建て・・・どんどん高くなっていく家。

まるで、つみ木をつみ上げていくように。

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 須磨の家を契約して、さっそく建築の準備に取り掛かりました。

建築士さん「どういったイメージで建てられますか?」

ぼく「えーと、こんな感じでお願いしたいんですけど」

プリントアウトした写真を見せました。

建築士さん「はあ…これいいんですけど、すごいお金かかりますよ?」

ぼく「ざっと見積もっていただいていかほどで?」

建築士さん「まあ軽く億は超えますねえ」

ぼく「やめときます」

建築士さん「これ、どっかで見たことあるような気きがするんですけど、なんでしたっけ?」

ぼく「カリオストロ城です」

建築士さん「ん?」

ぼく「あ、ルパンの。ジブリの」

建築士さん「あーはいはい。でもこういう古い石を使うのは取り寄せになるんで相当費用かさみますねえ」

それから何枚かイメージ写真を見ていただいたんですが、どれも予算との差が大きく、結局計画は前進しませんでした。

 

ぼくは計画の見直しを考えました。

須磨の家はフルリフォームして、1、2階をカフェ、3階を別荘、そして屋上に展望台を作ろうと考えていました。

ここは海を見下ろす景色がいいので、できるだけ目いっぱい高い建物にして屋上にソファとゆるい音楽のある展望台をつくりたいと考えていました。

この展望台計画だけはどうしても外したくなかったので、それ以外の部分で修正を考えました。

考えてるうちに現地を見た時の建築士さんが言ったことを思い出しました。

建築士さん「いいとこですねえ。ここでカフェってすごい夢広がりますねえ?なんかあのトトロっぽいですよね」

ぼく「トトロですか?」

建築士さん「メイちゃんのおうちってこんな感じじゃなかったですか?」

建築士さんにそー言われて改めてその家を見てみると確かに平屋と2階建ての建物がくっついていて和風とも洋風ともつかない感じのメイちゃんのおうち風かもしれません。

ここを全面リフォームではなく、床、壁、天井だけの部分リフォームに変えて、小さな新築の展望台を作るっていうプランならだいぶ安く上がるかも?

次の日また建築士さんと打ち合わせなので、それまでにその小さな展望台のイメージを完成させようと考えているうちに眠りについてしまいました・・・。

翌日。

結局小さな展望台のイメージは浮かばず、ペンネンネネムのテーブルで打ち合わせが始まりました。

建築士さん「いいお店ですねえ。絵本と置物の量がすごいですねえ。いろいろ飾ってはるのでキョロキョロしてしまいますよ」

ぼく「ありがとうございます。最初はもっと少なかったんですけど、営業していくうちにどんどん増えていったかんじですかね」

建築士さん「そうなんですか。でももうこれ以上増やせないんじゃないですか?天井から床までいっぱいいっぱいでしょ」

ぼく「いや、たぶんまだスキマみつけて棚作ると思いますねぼくは」

建築士さん「ハハハ。もうスキマないでしょコレ。あれですか常に新しい展開をしてお客さんを飽きさせない戦略とか」

ぼく「いやいや、そんなことまで考えてないです。もう単純にこーやって棚取り付けていろいろ飾ってっていうのが一番楽しい仕事なんです。ずっとやってられるというか」

建築士さん「へー、じゃあ次のお店も楽しみ増えるじゃないですか?」

ぼく「ですねえ。もうできれば完成してほしくないぐらいですよ。ずっと作り続けたいですもん」

建築士さん「サクラダファミリア的な」

ぼく「ハハハ、そんないいもんじゃないですけど」

 そんな話をしていたからか店の中にあるお城や家なんかの建物の絵本や写真集が並んだ棚を目で追っていました。

そこにある一冊の絵本に目がとまりました。

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 ぼく「さっきお話してた新築の展望台なんですけど、こんな感じで作ってほしいんです」

ぼくは絵本「つみきのいえ」をテーブルに置きました。

建築士さん「ほおほお。ちょっと西洋風な感じで外階段があってレトロな窓枠でって感じですね」

ぼくは「そうですねえ。この展望台のこの感じを出してほしいんですけど」

建築士「はあはあ、ちょっと欠けた外壁って感じですかこれ?」

ぼく「これね、海面が上がってきてつみきみたいに家を積み上げていく話なんです。で、その積み上げていってる途中の壁を表してるんやと思います。こんな感じに作ってもらえれば」

建築士さん「・・・」

変な間があいたので、なんかおかしなことを言ってしまったのかと不安になりました。

建築士さん「いやあ、ネネムさん深いですねえ~。まさに未完成の建物ですもんねえ」

ぼく「いやいや違います違います。たまたま偶然ですよ。デザイン的に気に入ったんがコレやっただけで、話の内容が偶然重なっただけですって」

建築士さん「いやあ、ネネムさん素晴らしい!」 

ぼく「・・・」

結局、新築の展望台は「つみきのいえ」風ということで落ち着きました。

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あの建築士さんが勝手に積み上げたぼくの奥深さをなんとか積み下ろしていかないといけないのがちょっと面倒ではありますが、これから新しい未完成のペンネンネネムをずっと作り続けていきたいと思います。

つみ木をつみ上げるように。

 

3匹のかわいいおおかみ

 

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不動産屋さんと値段交渉してた頃のこと。

「絵本と珈琲とアパート ペンネネネムin the forest」というプランで当初考えていました。

で、本屋さんで不動産経営の本を読んでみました。

どの本にも共通していることはアパート経営はよっぽどの経営センスがないと大損こくよみたいな内容でした。

すぐにアパート経営は諦めることにしました。

でも一冊、今のぼくの状況に役立ちそうな一文が書いてある本がありました。

「不動産屋に嫌われる覚悟で相場の半額以下の指値で格安物件をゲットせよ」

要は安値で買って、自分で内装工事して、相場より安い賃料で貸すという具合です。

ぼくは思い切ってこの須磨の物件で半額指値を不動産屋さんに投げてみました。

タイミングがよかったのかすんなり通りました。

同時にそのとき、これ、もしかしたらもう少し下がるかも?とそんな直感が働きました。

ぼくは大バクチの気持ちでさらに1/3の値段にしてほしいとのメールを打ちました。

こんな文面です。

「○○不動産○○様

いつもお世話になります。

さて、須磨の件なんですが、いろいろ工事のことなどを考えるとこの半額でもやはり厳しいところです。

大変恐縮なんですが、1/3の価格でオーナーさんにご相談いただけないでしょうか?それが難しいとのことでしたら今回は諦めます。ご面倒お掛けしますが何卒よろしくお願い申し上げます」

5分ほど迷って送信ボタンをおしました。

 

翌日、不動産屋さんから返信がきました。

こんな文面でした。

「ネネム様

いつもお世話になります。

さて、さっそくですが価格の件オーナーに確認を取りました。

やはり開きが大き過ぎて戸惑っておられました。今のところまったく対応できないご様子でした。

交渉の土台にすらのりませんでした。もし今後処分がうまく進まず、オーナーがさらに値引きするご意向がでた場合はご連絡させていただきましょうか?」

 

お店のスタッフに聞かれました。

スタッフ「店長、この前言ってた須磨の家はどうなったんですか?」

これまでの経緯を説明してスタッフにそのメール画面を見せました。

スタッフ「あらら、店長やっちゃった感じですねえ?なんか怒ってるというより呆れてるって文面ですよこれ。だいたい1/3の値段って欲張りすぎでしょ?」

ぼく「…そうやったらうまいこといくって本に書いとってんもん・・・。でも、なんとなく、またいつか、半年後とかに買い手がなかったら連絡あるような気がすんねん。さすがに1/3とまではいかんにしても」

スタッフ「考え甘くないですか?。交渉の土台にすらのってないんですよ」

ぼく「・・・」

スタッフ「でもよかったんじゃないですか?やっぱり須磨は遠いし、都会の方がいいですよ」

ぼく「いっとくけど須磨そんなに田舎ちゃうで?それに森の中でしかオレは店やる気ないから、どうしても郊外郊外になってくるわけよ」

スタッフ「都会に木植えて森っぽくするのではダメなんですか?」

ぼく「簡単に言うなよ。そんな金あるか」

スタッフ「ま、でも逆によかったじゃないですか。これをきっかけに都会で探せば」

ぼく「だからそんな田舎ちゃうっちゅうねん」

スタッフ「店長、昼から予定ないんやったら、中崎町あたりで空き物件でも探しに行ったらどうですか?」

ぼく「やかまし」

 

二日後、携帯がなりました。不動産さんからです。

ぼく「もしもし、どうされました?」

不動産屋さん「ネネムさん、須磨の件ですけど、さっきオーナーさんから連絡ありまして、その金額でOKとのことです」

ぼく「えー!!めっちゃうれしいですけど、なんでまた?」

不動産屋さん「なんでも息子さんの商売の関係で緊急で現金が必要になったそうなんですよ」

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3匹のこぶたが作った家をオオカミが壊しに来ます。

しかし、こぶたたちはレンガの家でオオカミを退治するのでした。

 

 

こぶたはオオカミを呼び出しました。

こぶた「電話あってん」

オオカミ「ん?」

こぶた「不動産屋さんからで。あの値段で契約するって」

オオカミ「えー!?ほんまですかあ!?絶対無理やと思ってた・・・」

こぶた「みてみい!俺の言う通りやろがっ!だからまた連絡あるって言ったやろ!な?半年後どころか2日やぞ!

たったふ・つ・か!」

オオカミ「ええ~信じられないですねぇ・・・」

こぶた「なあ、見たかこの俺の交渉力!ネゴシエーションパワーを!え?」

オオカミ「・・・でもあの文面のかんじやと全然無理そうでしたけどねえ?」

こぶた「行間を読め!行間を。完全に無理とは言ってなかったやろ。少し余地がある感じわからんかったか?まあ君らみたいななんも考えてへんアルバイトフゼーには、その辺の微妙な感じはわからんやろねえ。まあ経営者たるもんこれぐらいの交渉は当然やわね。ガハハハ」

オオカミ「・・・」

 

こぶた店長は完膚なきまでにオオカミバイトを叩きのめしましたとさ。

 

 

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3匹のかわいいオオカミが作った家を大ブタが壊しに来ます。

大ブタは鼻息、ハンマー、ドリル、ダイナマイトで容赦なくオオカミたちの家を破壊します。

しかし、かわいいオオカミたちは知恵を絞って大ブタに壊されないある材料の家を思いつくのでした・・・。

ブタとオオカミの立場が入れ替わる現代版3匹のこぶた「3匹のかわいいおかみ」です。

 

 

お店に大きな段ボールが届いていました。

オオカミが大ブタに不思議そうに聞いてきました。

オオカミ「店長、なんかですかコレ?」

大ブタ「それワークブーツ。須磨で庭作業するのに買ってん」

オオカミ「えらいたのみましたねえ?」

大ブタ「まあ、みんなにもちょっと手伝ってもらおうかと思ってスタッフ分も買ったんやけど」

オオカミ「はあ…でもこんなにいります?」

段ボールにワークブーツがぎっちり詰まっていました。

大ブタ「うわ!やってもーた。3個のつもりが9個になってる・・・」

オオカミ「返品できるんじゃないですか?」

大ブタ「ちょ、ちょっとやっといてくれる?」

オオカミ「えー?私がやるんですか?自分でやってくださいよ」

大ブタ「ごめん、頼むわ。オレ、そういうの苦手やねん…」

オオカミ「…交渉得意なんじゃなかったでしたっけ?」

大ブタ「え?まあ、あれやはこれも一つの勉強やと思ってですねえ、ここはひとつ」

オオカミ「勉強って。いやなこと押し付けてるだけじゃないですか」

大ブタ「もうわかったよ。いい、いい。自分でやるからえーよ。ふん」

 

交渉の交渉が決裂してしまいました。

昨日はコブタ、今日は大ブタ。

なかなか立場の安定しないブタテンチョでございます・・・bubu。

 

in the forest

少年はラッパを吹きながら森の中をひとりで散歩しています。

森の奥に少年のラッパの音が響いて、ライオンがやってきました。

そして、くま、ぞう、カンガルー、さる、うさぎといろんな動物たちが次々と少年のラッパの音色に誘われてやってきます。

みんなそれぞれに太鼓を叩いたり、踊ったり、歌ったりして少年のあとをついていきました。

少年と動物たちのマーチングバンドは深い森の中を行進していきます…。

マリーホールエッツ作「もりのなか」という絵本のお話しです。

 

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 2年前くらいから、

こんなちょっと不思議で楽しい世界観の「ペンネンネネムin the forest」という名の絵本店を考えはじめました。

とりあえず、「まわりが森」「庭が広い」「駅から徒歩で行ける」「海がみえる」

この4つの条件で頭の中の「ペンネンネネムin the forest」に最適な場所を探し始めました。

半年たっても、一年たってもこの条件にはかすりもしませんでした。

そして、1年半後。

神戸の須磨の丘の上の一軒家と出会いました。

何十年とほとんど空き家状態。家もボロイし、庭は雑草ジャングルでした。

しかし、家のまわりをぐるっと雑木林が囲んでいて見事に森の中という空間になっていて、

振り返ると神戸の海が広がっていました。

庭も広く、駅からも歩いて8分程度の距離。

ペンネンネネムin the forest」のイメージが一気にふくらみました。

そこから、なんやかんやといろいろあって、いよいよ決断のときになりました。

ぼくにとってはとても大きな買い物なので、

「よく考えたいので一週間だけ時間をください」と不動産屋さんに伝えました。

それからぼくは毎日そこに通ってその家や森や海の景色を眺めながら、

買うべきか?やめるべきか?を悩んでいました。

軽く失敗しましたのレベルの金額ではなかったので、考えれば考えるほど迷いました。

最初苦にならなかった駅からの道のりもなんだか妙にしんどく感じたり、

最初に感激したそこから見える海の景色もそんなに素敵に感じなくなっているような気もしてきました。

結局自分はなんじゃかんじゃと買わない理由さがしてる?

でもこんな自分の理想に近い場所が今まであったか?

そもそも須磨の住宅街の丘の上のカフェにお客さんが来る?

もしほかの誰かがここでいい感じのカフェやったとき超後悔しないか?

ここまで値段が下がっても買い手がつかなかったってことは、たとえ安くても買うべきではないアブナイ物件ってみんなが判断してるってことじゃないのか?

いやいや、、みんなが買わないから逆に買いなんじゃないか?

もう迷いすぎて考えるのも嫌になってきたとき、そこの家の前で近所のおばあさんに声を掛けられました。

おばあさん「ここ誰もいてはれへんよ」

どうも空き家周辺でウロチョロしていたので不審者扱いにされたようです。

ぼく「あ、知ってます。ここ売りに出てまして、買おうかどうか迷っていて見に来ているんです」

おばあさん「あら、そうなの。もう私は92なんやけどね、40年くらいここで住んでるけど

 いいとこよここ。静かやしねえ。たまにこーやって音楽の音が聞こえてくるぐらいでほんとのんびりできるとこよ」

たしかに耳を澄ますと吹奏楽のトランペットや太鼓の音がかすかに響いていました。

近くに支援学校があるらしくそこの生徒さんたちの演奏とのことでした。

町の景色に溶け込みすぎて全然気づきませんでした。

そこから92歳のおばあさんはぼくにこの町の素晴らしさを語り始めました。

春の桜、海に見える夏の花火、ウグイスの声、近くの植物園、交通の便のよさ、市バスの運転手の態度、

20年前にご主人に先立たれたこと、長男が東京の証券会社で働いていること、長男の嫁との確執・・・。

だんだん話しが違う方向に行きだしました。

ぼく「あ、あのお、虫とかはどうですかねえ?やっぱり森やしすごい多かったりします?」

おばあさん「そりゃいるけど、そんなに特別多いことはないと思うけどねえ。この前フクロウいてたよ」

ぼく「えーフクロウいてるんですか!?いいですねえ」

おばあさん「こざるもいてるよ」

ぼく「サルいるんですか!?」

おばあさん「何年か前に小学生の子がコグマ捕まえたこともあるよ」

ぼく「こ、小熊!!??いやいや、そんなんアブナイじゃないですか?大きくなったら・・・」

おばあさん「危険物で市役所に持って行ったみたいやわ」

ぼく「はあ・・・」

おばあさんはこの後、このやりとりを3回ぐらいループさせました。

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 ぼくは駅までの道すがら、ここを買う決意が固まりました。

ぼくは大切なことを見失っていたようです。

商売が成功するとか失敗するとか、駅からの道が楽かしんどいかとか、ロケーションがいいとか悪いとか・・・

そんなことばかりを気にしていて92歳のおばあさんにほんとにたいせつなことを教えていただきました。

ほんとうに大切なことは

森の中にラッパの音が聞こえて、その森にラッパの音を聴く動物たちがいるかということでした。

おそらくあと100年「ペンネンネネムin the forest」にふさわしい場所をさがしても、

森の中にラッパの音が響いて、その森にクマやサルがいるようなところは見つからないでしょう。

 

これを読んでくれているペンネンネネムのお客さんの耳にもラッパの音が届くといいなと思います。

もし、このラッパの音が誰にも届かず、ペンネンネネムin the forestが失敗したとき、全責任はこのおばあさんに負っていただく所存です。

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おそらくおばあさんの言うコグマはアライグマのことではないかと近頃思っています…zzz